2013年04月21日

~ その四、オちる。

*****

「あれ」

最後の言葉を聞いた後、いつの間にか気を失っていたようだ。

あれは……。夢?

私は、そう思った。いや、思いたかった。
あんな恐怖は、もう二度と経験したくなかったからだ。

私は、テレビを見た。
アレが、現実だったのかどうか確認したかったからだ。
しかしテレビに映っていたのは、ソウサセン。

《ゴォウー》

と、荒い音をたてて。

私は胸を撫で下ろし、安堵した。
テレビがついているのは、亜紀が暇つぶしにでも観たのだろう。
なにせ私は、長い間、寝てしまっていたのだから。

そして、亜紀を探した。
アレは夢だったと、肯定する為に。
しかし、居るはずの彼女は何処にも居なかった。

やっぱり、アレは実際?
いや。私が、うたた寝た間に彼女は帰ったのだろう。
私と亜紀の仲では、良くある事。珍しくもない。

きっと、そう。

と私は、自分を納得させた。
恐怖を誤魔化すよう。

しかし!

《プン》

放送(げんじつ)が、それを許さなかった。
再び、アレを映し出したのだ。

紅い雪が吹雪く、雪原に立つ黒髪の日本人形を。

私は、後悔した。
始めにテレビを確認した時点で、気づくべきだったんだ。
アレが、現実であったという純然たる証拠に。

テレビは、去年買った最新式のもの。
だから電波を受信していなければ、単色の青い画面になる。
すなわちソウサセンは、間違っても映し出さない。

そう。あれは砂嵐(ノイズ)じゃ無かったんだ。

紅く染まる前の白い雪だったんだ。
漆黒の闇に猛烈に吹雪いていた白い雪だと。
そう気づくべきだった。

そして、あの時点で、即座に、ココから逃げ出すべきだったんだ。
また……、ナレーションが流れる。

「このお話は、とても悲しい女の子のお話。受験を控えた哀しい女の子の」

雪には、人形の首辺りから噴出す血が混ざっていた。
だから雪は、紅かったのだ。血に染まり。

「行く先が決まってないの」

おもむろに言った。
ナレーションではなく、人形が。
その声は、どことなく亜紀のもののよう。

「だったら死ねば良い」

ナレーションが、どすの利いた男の声で告げた。
心を圧迫し、押しつぶすように。

「死ねば良いんだよ。お前自身が思ったようにな。あははは」

と。

私は腰を抜かし、動けなくなった。
ただただ恐怖に支配され。

「ねぇ。麻弥……、知ってる?」

人形が続けた。私の名前を呼びながら。
またカクカクと足を動かさずに日本人形が画面前面に来た。
その時、なぜ人形が私の名前を呼んだのか分かった。

首から上に、亜紀の生首が乗っていたのだ。
そう。声の主は、亜紀本人だった。

「人間の一番、重たい部分。それは首から上なの。頭が一番重いのよ」

彼女が、ニタリっと笑った。
紅い雪が、吹雪を越え、画面を真っ赤に覆った。
最後に亜紀が、ゆっくりと告げた。

「ねぇ。貴女も軽くならない?」

後、キャハハハと、高笑いを響かせながら。
私には、もう唯一つ。唯一つの事しか考える事ができなかった。

何もオちて来ないで!

と。

《ドサッ》

~ その四、オちる、了。

posted by 四草めぐる at 23:00| Comment(0) | ホラー小説 | 更新情報をチェックする

~ その参、何か。

《ドサッ》

私が亜紀に答えれなかった時。
亜紀が吐露した瞬間。

何かが、オちてきた。

私と亜紀の後ろ。
二人の視界が及ばぬ真後ろのスペースに。
とても重そうな、何かが。

「麻弥!」

亜紀が、私を呼ぶ。
顔を向けずに。

横を向けば、何かが視界に入るから。
怖くて、首を動かせないのだ。
微々たるとも。

彼女の首筋に力が入って、冷や汗が伝わっている。
私は横目で、確認する事できた。

何かを見たら、そこで終わってしまう。
何かが、終わってしまうのだ。

彼女の汗を目撃して、強くそう思った。
私もまた動けなくなっていた。

「そして! 軽くなるお話!」

急にナレーションのボリュームが上がった。
耳をつんざくような声量。さらに錆付いた鉄の塊のように重々しく。
深い闇の底から伸びる真っ白な手が私たちを引きずり込んだ。
恐怖という奈落へと。

私と亜紀は、押し並べて気圧された。

《ズリ……、ズリ……》

オちてきた何かが。
何かが、私たちに向かって、近づいてくる。
這いずるような鈍い音をたてつつ。

「軽くなるお話」

再度、ナレーションが告げる。

告げると同時。
今まで、うつむき顔が見えなかった人形の表情が表れた。
目をカッと見開き、歯を剥き出し大口を開けて。

ニタリっ。

と、笑っている表情が。
見開かれた人形の目は、殺意に満ちていた。

「軽くなりたいのは……、」

亜紀は半狂乱。
顔面蒼白で、涙を流しながらガタガタと震え、爪を噛み続けている。
ただ、もうどうしていいのか分からずに。

「どっち?」

怖がっては、ダメだ。
と私は、正気を保とうと努めた。
もし、亜紀のように恐怖に支配されてしまったら。

「もうダメ。耐えられないよ。麻弥」

亜紀が、諦め呟いた。
名前を付け加えたが、決して私にではなく自分に向かって。
それは、どうしもない絶望をよく表していた。
後、彼女は、不安を解消する為……、

振り向いた。

「キャハハハ! な~んだ」

彼女は、明るく言った。
さも大した事など無かったのだと思ったよう。
続けて……、

「ただの女の生首じゃん」

と、告げた。
朗らかに微笑みつつ。

「貴女ね」

亜紀の言葉に生首が答えた。
冷たく、どす黒く、そして深い憎悪を表し。
その声が、私の耳に粘っこく、ベタァっと貼り付いた。

~ その参、何か、了。

posted by 四草めぐる at 22:54| Comment(0) | ホラー小説 | 更新情報をチェックする

~ その弐、ターニングポイント。

「なんか。おかしくない。この放送って」

亜紀が、私の思考を遮り、ゆっくりと告げた。
言いたい事を誤魔化し言葉少なく。

彼女が、口にしたくない思い。
それは、この放送が、この世のものではないのではという疑問。
私も同じ疑問を持ったから、よく分かった。

作り物(フェイク)ではない。

そんな迫力を持っていたのだ。今、流れている放送は。

「ライブぽいし」

亜紀が呟く。
私と同じ恐怖を感じているようだ。

「ねぇ。亜紀。テレビ……、消さない?」

私が、亜紀に同意を求めた。
このまま見続けると、何かが起こると察知したから。
その何かは、とても耐えられない危険な事なのだと感じたのだ。

「そうね」

亜紀が同意した。
後に続く言葉を綴る事もままならず。
彼女が綴れなかったのは、なんか怖いしねという思い。
私は、そう思った。

なにせ私もまったく同じ思いだったからだ。

とにかく、亜紀がテレビのリモコンを手にとった。
放送(きょうふ)を断ち切り終わらせる為に。

「この話は、とても悲しい女の子のお話。受験を控えた哀しい女の子の」

亜紀の手が思わず止まる。
電源のスイッチに手がふれた瞬間、ナレーションが流れたのだ。
それも、衝撃的な内容を私たちに伝えつつ。
だから彼女は、消す事を躊躇した。

今、この時が、私たちのターニングポイント。
運命の別れ道だった。

もし、ナレーションなど気にせず、テレビを消していたら……。

「行く先が分からなかった女の子のお話」

陰鬱な声が続ける。
私の背筋が、ゾゾゾっと凍てつくのが分かる。
決して、真冬の寒さによって身体がではなく、心の芯が冷えたのだ。
亜紀もまた。

「気持ち悪いよ。この放送、なんか怖い」

彼女は、遂に耐え切れなくなったのか、思いを吐露した。
意を決し、必死で、私に助けを求めるかのように。

でも、私だって怖い。亜紀に助けて欲しいんだ。
この恐怖から今すぐ逃げ出したい。
と、切に思った。

だから亜紀に何も答えず黙った。
気持ちに応えれなかった。

~ その弐、ターニングポイント、了。

posted by 四草めぐる at 22:50| Comment(0) | ホラー小説 | 更新情報をチェックする

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